大判例

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神戸地方裁判所 昭和27年(レ)14号 判決

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一、二項と同趣旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴人において「移転料として三年前に契約した一万円は現在の十万円に相当するから被控訴人がその支払義務を認めない限り明渡に応じられない。なお控訴人の家族は本人と母親の二人である」と述べ、被控訴人において「控訴人の家族数が二人であることは認める」と述べた外はいずれも原判決の事実摘示どおりであるからここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人はもと被控訴会社の従業員であつて被控訴会社の社宅である神戸市灘区大石東町五丁目五九番地上家屋番号八八番木造瓦葺二階建のうち階上北側約五坪五合の室(以下本件室と略称する)の使用を許されていたが、昭和二十一年十二月三十一日被控訴会社を退職したことは当事者間に争のないところであるがその後昭和二十四年八月八日神戸簡易裁判所において当事者間に本件室を移転先が見付かるまで控訴人に使用させる旨の調停が成立したことは被控訴人の認めるところであるから、被控訴人の社宅に関する処務規定に基く本件明渡請求はその規定の成立時期の如何にかかわらず理由がない。そこで果して右調停により当事者間に成立した右社宅の使用関係の性質について検討するに成立に争のない乙第一号証に原審における証人友野豊治同氏家謙輔の各証言を綜合すれば、被控訴会社では従業員中住宅に困つている者が多いので最も退職日の古い控訴人に明渡を求めるため前記調停を申立てたこと。右調停において被控訴会社は控訴人が適当な移転先を見付けるまで本件室に居住することを認め、控訴人はその間賃料として月二百十円を被控訴会社に支払うこと。控訴人が移転するときは被控訴会社は引越荷物運搬に要するトラツクを無償で提供し、また控訴人が本件室を完全に明渡したときは移転料として金一万円を贈与することを了承したことが明かであつてこの事実に冒頭認定の控訴人は社宅として無料で本件室の使用を許されていたが右調停に先だつこと約三年八月である昭和二十一年十二月十三日に被控訴会社を退社していること等を綜合して判決すれば当事者は本来本件室は明渡すべきものであるが控訴人がその移転先を得ることの困難な事情を顧慮し、その移転先を見付けるまで一時の賃貸借をしたものであると認めるのが相当であつて右調停に控訴人が家賃を支払うべく定めてあることを以つて直に借家法の適用ある新な賃貸借契約が成立したと考えることは前記事情からして無理であり、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

次に控訴人はいまだ適当な移転先がみつからないので明渡の請求に応じられないと主張するが本件調停の条項にいう借主が適当な移転先を見付けるまでとの約旨は前記調停成立の事情等から考えて、控訴人が移転先を見付けるまで何時までも無条件という趣旨でないことは明かであつて、当時住宅は払底してはいたが誠意を以つて探せば得られないことはなかつたこともまた周知の事実であり特に控訴人は自認するように家族は本人とも二人で比較的それを得易い事情にあつたのであるから、誠意を以つて移転先を探すに要する相当期間は解約ができないことを明にしたに過ぎない趣旨であると解するのが相当である。そして前記調停が成立した昭和二十四年八月八日から明渡を求める本件訴状が送達されたことが記録上明らかである昭和二十六年二月二十二日迄約一年六月余の間は控訴人が移転先を探すに相当であると認められるが、この間控訴人が誠意を以つて移転先の発見に努力したがそれを得られなかつたことは之を認める資料なく、却つて被控訴会社においてその後控訴人のため一、二の借家又は売家を紹介したけれども控訴人の方でその移転先として不適当としてこれを断つていたことは当事者間に争のないところであり、検証の結果によれば家族二人である控訴人において右提供家屋が到底居住しえないものであるとは認められないことから推断すれば控訴人は本件訴状が控訴人に送達されるまでの間においても移転先を求めるにつき著しく誠意を欠いていたものと認めるのが相当であり、従つて移転先の見付からないことを以つて明渡を拒むことは許されないものといわねばならない。

果してそうだとすると本件訴状の送達をもつてなされた賃貸借契約の解約申入は正当であり、右賃貸借契約は訴状送達の日である昭和二十六年二月二十二日から三月を経過した同年五月二十二日限り終了したものである。

なお控訴人は調停成立当時約定された一万円の移転料は現在としては金十万円が相当であると主張するが前認定の調停条項によれば移転料は控訴人が本件室を完全に明渡した後でなければ請求できないことは明かであり、調停においてもその後相当期間経過後支払われることを予定して一万円と定めたものであるし、その相当期間以後の日時は控訴人が理由なく移転を遅延させていること叙上認定の通りであるから右主張も援用できない。そうすると結局控訴人は本件室を明渡し、かつ賃貸借契約の終了した翌日である昭和二十三年五月二十三日以降明渡ずみになるまで賃料相当額である一月金二百十円の割合の損害金を支払う義務あるものである。よつてこれと同趣旨の理由で控訴人に対し右明渡及び損害金の支払を命じた原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条によりこれを棄却することとし、控訴費用については同法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井末一 中村三郎 黒川正昭)

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